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東京地方裁判所 昭和49年(ワ)6303号 判決

原告

奥田耕平

右訴訟代理人

久野幸蔵

被告

右代表者

稲葉修

右指定代理人

加藤和夫

外一名

主文

一  本件訴を却下する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実《省略》

理由

一まず、本件訴が適法であるか否かについて判断する。弁済者が過失なくして、債権者を確知できないときは、弁済者は、債権者のために弁済の目的物を供託してその債務を免れることができ、その場合、債権者は自己の権利を証明して、その還付を請求できることは、民法四九四条、供託法八条の定めるところである。

そして、被告が主張するとおり、右供託事務を取り扱うのは国家機関である供託官であり(供託法一条、同条の二)、供託官が供託物の還付請求を受けた場合において、その請求を理由がないと認めるときはこれを却下しなければならず(供託規則三八条)、右却下処分を不当とする者は監督法務局または地方法務局の長に審査請求をすることができ、右の長は、審査請求を理由ありとするときは供託官に相当の処分を命ずることを要する(供託法一条ノ三ないし六)と定められており、実定法は、供託官の右行為につき、とくに、「却下」および「処分」という字句を用い、さらに、供託官の却下処分に対しては特別の不服審査手続をもうけているのである。

以上のことから考えると、もともと、弁済供託は弁済者の申請により供託官が債権者のために供託物を受け入れ管理するもので、民法上の寄託契約の性質を有するものであるが、供託により弁済者は債務を免れることとなるばかりでなく、金銭債務の弁済供託事務が大量で、しかも確実かつ迅速な処理を要する関係上、法律秩序の維持、安定を期するという公益上の目的から、法は、国家の後見的役割を果すため、国家機関である供託官に供託事務を取り扱わせることとしたうえ、供託官が供託物還付の請求を受けたときには、単に、民法上の寄託契約の当事者的地位にとどまらず、行政機関としての立場から右請求につき理由があるかどうかを判断する権限を供託官に与えたものと解するのが相当である(最高裁判所昭和四〇年(行ツ)第一〇〇号同四五年七月一五日大法廷判決参照)。

したがつて、以上のような供託物還付手続および供託官の権限の性質等を考えるならば、債権者が供託物の還付をうけるためには、まず、供託所に対し、法定の手続に従つて、その還付請求をなすべきであり、右請求が供託官によつて却下されたとき、あるいは、右却下処分につき審査請求がなされ右処分が審査決定でもなお維持されたときにはじめて当該供託官を被告として、その処分の取消を求める行政訴訟を提起できるものと解すべきであつて、何ら右手続を経ることなく、直ちに国に対し、供託物の還付を求める趣旨の民事訴訟を提起することは不適法であつて、許されないというべきである。

なお、原告は、本件においては、私人間の訴訟その他の方法をもつてしては、供託金の支払いを受けることが不可能であつて、本件訴訟がその唯一の方法である旨主張する。しかし、原告主張のような事情があるとしても、原告は、他の競合する被供託者を相手方として民事訴訟を提起するなどの方法で、還付を受ける権利を有することを証明したうえで、還付請求すれば、供託金の支払いを受けることも十分可能と解せられるから、前記のように解したとしても、原告の権利救済に欠けるところはないといわなければならない。

二以上のとおりであるから、原告が被告に対し、供託物の還付を求める本件訴は不適法であつて、却下すべきである。

よつて、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(園田治 高橋金次郎 大坪丘)

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